病気のお話

人工透析のお話

【 薬剤管理 】
薬剤は大きく分けて尿に排泄されるものと、便に排泄されるものがあります。
尿中に排泄される薬剤は、透析患者さんでは投薬量を減ずる必要があります。
場合によっては投与が禁じられていることがあります。

薬剤ごとの代謝経路

人工透析
人工透析解説図
人工透析
人工透析解説図

腎排泄型のみならず、肝排泄型でも減量が必要なことがあります。

人工透析
人工透析解説図
人工透析
人工透析解説図

腎不全では、排泄遅延による薬剤の蓄積や、反対に透析による除去で効果が薄れることを考慮する必要があります。

【動脈硬化管理】
動脈硬化は老化と同義だと考えていいです。
血管が硬化して血流が悪化することにより臓器の機能は低下します。
その危険因子として、高血糖、高脂血症、高血圧、喫煙が有名です。
透析患者さんでは二次性副甲状腺機能亢進症により骨から溶け出したカルシウムが血管に沈着して動脈硬化を進行させます。
動脈硬化の進行による障害は下図のようなものです。

人工透析
人工透析解説図

【動脈硬化の対策として当院では下記のようなことをしています。】

1.  皮膚組織灌流圧(SPP)検査
下肢の血流を測定して動脈硬化の程度を評価します。

2. 脂質(中性脂肪・コレステロール)測定
動脈硬化危険因子としてモニターします。

3. 食事管理
塩分・脂肪の管理が重要です。

4. 血管硬化改善作用薬
プロスタンディン製剤が中心となります。

5. 脂質代謝改善薬
スタチン系薬剤が中心となります。

6. フットケア
足の爪のケア、傷の処置をこまめに行います。

7.フットバス
炭酸泉による足浴で足の血行改善を行います。

8.キセノンランプ照射
キセノンランプ照射で血流改善を行います。

9.遠赤外線照射
遠赤外線照射で血流改善を行います。

10.プラズマアフェレーシス
血中の脂質を除去する治療です。
近隣の中核病院の循環器科に依頼しています。

11.血行再建術
血流の悪化している部位の血管を広げて血行を改善する血管内治療です。
近隣の中核病院の循環器科に依頼しています。

12.下肢切断
血行再建が困難で感染症が進行した壊疽に対しての最終的な処置です。
近隣の中核病院の整形外科に依頼しています。
術後の予後は決してよくありません。

【心不全】
透析の技術が進歩した結果、高齢の透析患者さんや長期の透析患者さんが多くなりました。
それとともに今最も問題になってきたのが心不全対策です。
心臓のポンプ機能が低下すると、心臓はその機能低下を代償するために心臓の筋肉を肥大させます。
これが心不全による心肥大です。

循環血液量が多くて心臓が大きくなった場合は、透析により余分な水分を取り除くと心臓は元の大きさに戻りますが、心不全による心肥大では戻りません。
ポンプ機能の低下により、心臓は血液を送り出す力が減少し結果として血圧が低下します。
人工透析では、血液を浄化するために体外に200ml程度の血液を取り出して、また戻すという処置を行います。
この処置自体が軽い運動に相当する負荷を心臓に与えます。
そのため心不全の患者さんは透析を開始すると血圧が低下します。
元から低い上にさらに低下するので、透析を維持することが困難となり、しばしば昇圧剤を使いながらの透析となります。
これが透析困難症です。
血圧維持ができなくなれば、最終的には透析離脱となってしまいます。

私たちの施設では心不全対策として以下のことを行っています。


1. エルゴメーターによる運動
透析中にエルゴメーターを使って運動を行ってもらい、下肢の筋肉維持に努めてもらいます。
下肢の筋肉が維持されることは心臓にとって大変好ましいことであり、最近透析運動療法が注目されています。

2. カルニチン
カルニチンの心臓肥大に対する改善効果が示唆されており、当院では積極的に投与しています。

3. 貧血の改善
赤血球の量が少なくなれば心臓が送り出す血液による組織の酸素補充が不十分となるため、心臓が血液を送り出す回数を増やして補おうとします。
つまり心拍数が増えることになり、その分心臓の負荷は増すことになります。
このような負荷を軽減するために、心不全が疑われる患者さんでは貧血の治療目標を少し高めに設定しています。

4.I-HDF
先に述べたように心不全の患者さんでは、透析中の血圧が低下して透析を維持することが困難になります。
昇圧剤を多用するのは、ある意味心臓に鞭を当て続けることになるので最小限に抑えたいところです。
I-HDFという間欠的に補充液を透析回路に送り込む透析方法は、低下した血圧を改善する効果があり極めて有効です。

5.βブロッカー
心不全に対する薬物治療の代表的な薬剤です。
近隣の中核病院の循環器科に相談して処方しています。

最後に・・・
このように当院では透析患者さんに様々な処置を行っています。
人工透析が日本に導入された当時は、尿毒症の治療という観点のみから透析が施行されていましたが、その後貧血、副甲状腺機能亢進症といった透析合併症が生命予後に与える影響が注目され、これらの合併症対策が色々となされてきました。
さらに患者さんの高齢化、長期透析患者さんの増加に伴い、現在は心不全対策が注目されています。
そのため透析技術の開発、薬剤の開発に加え、近年は透析運動療法、食事管理が注目されています。
当院でも患者さんのための食事を検討し、厨房でおいしくて体によい透析食を検討し、患者さんに提供しています。
管理栄養士による透析食に関する試食・講演会も定期的に行って食事管理の啓蒙活動に努めています。

また、私たちの地域は公共交通が不便な場所です。
高齢、独居の患者さんにとっては週3回の通院は大変な負担です。
当院では患者さんの送迎を積極的に行っています。
厨房や送迎といったサービスは健康保険では当然カバーされません。

当院では透析食は600円患者さんから負担してもらっています。
これは一食の経費の約1/3です。
送迎は無料です。
全国の多くの透析施設が同様のサービスを患者さんに提供しています。
保険点数の改正の度に透析に関する保険点数は削減されることが通常化しています。

現在の透析サービスを向上させる・維持するための体力を透析施設が保つために、膨大な医療費に対する政策は必要ですが、透析をいつもスケープゴートにはしないでほしいと切に願っています。

 医療法人 淳風会 熊野路クリニック 院長 越村邦夫

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