病気のお話

糖尿病のお話

熊野路クリニックでの糖尿病の薬物選択

薬剤を選択するために経口糖負荷試験(75g OGTT) による内因性インスリン分泌能の評価をします。
つまり患者さんの膵臓がどれくらい働いているかを評価します。
この検査は糖分を摂取してもらいその後の膵臓からのインスリン分泌を測定する検査です。
正常人では糖分摂取後30分でインスリンの分泌はピークに達し、その後徐々に分泌が減少します。
このインスリンの分泌パターンと分泌量がどれくらい正常に近いかで薬剤の選択をするわけです。

1.インスリンの選択

インスリンの分泌量が極めて低いときは膵臓にインスリン産生能があまり残されていない状態といえます。
このような疲弊した膵臓はしばらく休養が必要です。
従ってインスリン産生をしなくてもいいように、インスリン注射により外部からインスリンを補充することで膵臓の回復を促します。
膵臓が回復すればインスリン産生能が戻ってきてインスリン分泌も正常化してくるので、そうなって時点でインスリン注射は中止し自前のインスリンを利用してもらいます。
インスリン注射を躊躇する患者さんは、インスリン注射をすると一生止められないと誤解している場合が多いです。
早めにインスリン注射を開始して膵臓の回復を促すことを躊躇すると膵臓が回復不能なほど疲弊してしまいます。
そうなったら一生インスリン注射が必要になります。

「インスリンを打ちたくないなら早めにインスリンを打ちましょう」

と患者さんに説明しています。
インスリンには作用時間の長いものと極めて短いものそれらの混合したものがあります。
その患者さんの血糖のコントロール状態に応じて変えていく必要があります。


2.スルホニル尿素剤、即効型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬

インスリン分泌能がある程度残っているが、糖質摂取後の速やかなインスリン分泌のピークが失われている患者さんの場合は、膵臓を刺激してインスリン分泌を促進するこれらの薬剤が有効です。

スルホニル尿素剤は血液中に薬剤が存在している限り膵臓を刺激してインスリン分泌を促進します。

即効型インスリン分泌促進薬は、投与するとすぐに膵臓に作用してインスリン分泌を促進するので、糖質摂取後の速やかなインスリンの分泌ピークを再現します。
また分解が早いので作用は短時間となります。

DPP-4阻害薬は糖質が血糖値の上昇により分泌され膵臓に作用してインスリン分泌を促進するインクレチンという
物質の分解酵素であるDPP-4を阻害してインクレチンの血中濃度を高めて膵臓からのインスリン分泌を促進します。

インクレチンは、血糖値が高いときのみ分泌される物質なので、この薬剤も血糖値が高いときのみ膵臓に作用する薬剤といえます。

3剤の特徴を比較すると血糖値が低くても作用し続けるスルホニル尿素剤が膵臓への負荷が一番大きいと考えられます。
歴史的にこの薬剤が最も古くに開発されたものです。
この薬をやみくもに投与して膵臓が疲弊してインスリン分泌能が返って低下した状態で来院する患者さんも少なくありません。
当院でも以前はこの薬剤を投与していましたが膵臓への負荷を考え現在は新たに開発された即効型インスリン分泌促進薬とDPP-4阻害薬をスルホニル尿素剤の代わりに投与することが多いです。
ただし、スルホニル尿素剤にはジェネリックがあるために治療費は他剤に比べてかなり安くなります。

私たちのクリニックのある地域は一次産業に携わる人が多くサラリーマンの多い都市部に比べて所得が低い傾向にあるため、スルホニル尿素剤を処方せざるを得ない場合もしばしばです。
どの薬剤を処方するにしても、膵臓への負荷を考える必要があるので血糖降下作用が不十分な場合はこれらの薬剤の投与量を増やすのではなく、膵臓への負荷のない薬剤の併用あるいは切り替えを行っています。



3.αグルコシダーゼ阻害薬

この薬剤は胃からの糖質の吸収に必要な酵素であるαグルコシダーゼの作用を抑制して糖質の吸収をゆっくりにする効果があります。
この作用は食事療法でお話ししたゆっくり少しずつ食べるという食べ方を薬により再現するものです。
従って血糖の急激な上昇を和らげる効果があります。現在血糖コントロールで最も重要と考えられている食後高血糖の是正に最もふさわしい薬剤です。
この薬剤は膵臓への負荷がありませんから私は基本的には糖尿病の薬物治療のファーストチョイスに選んでいます。

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